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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)9043号 判決

原告 丸原木材有限会社 外七名

被告 株式会社野田修護商店

主文

東京地方裁判所昭和三五年(ヌ)第一六四号土地建物強制競売事件につき、昭和三五年十月二七日東京地方裁判所の作成した配当表の中、被告に対する優先配当の金十六万九千二百円(別紙配当表の中(A)の部分)、金百十四万八千四百八十七円(別紙配当表の中(B)の部分)の各部分を取消す。

右取消部分につき新なる配当表の調整及び他の配当手続を命ずる。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、

第一次的に、

一、東京地方裁判所昭和三五年(ヌ)第一六四号土地建物強制競売事件について、同裁判所が作成した配当表のうち、被告に対する優先配当を定めた部分を取消し、被告に対する配当額合計金一、三一七、六八七円並びに他の優先権者に配当したあとの残額金九〇一、〇八四円を、原、被告間において平等に配当する。

予備的に

二、東京地方裁判所昭和三五年(ヌ)第一六四号土地建物強制競売事件について、同裁判所が作成した配当表のうち、被告に対する優先配当を定めた部分金一、一四八、四八七円のうち、金七九六、三五五円を越える部分を取消し、右取消された配当額金三五二、一三三円と他の優先権者に配当したあとの残額金九〇一、〇八四円とを、原、被告間において平等に配当する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、請求原因として次の通り述べた。

一、被告は、昭和三三年三月三十一日、訴外債務者山本平助に対する約束手形金(額面金百十四万八千四百八十七円)及びこれに対する昭和三三年五月一日(満期の翌日)以降完済迄年六分の割合による損害金債権を被保全権利として、債務者山本平助所有の、

(一)  東京都江東区深川東陽町二丁目一七番地の二五、宅地四一坪五勺、(以下本件土地という)

(二)  同所同番地、家屋番号同町一七番一三、

木造瓦葺二階建居宅一棟建坪一六坪五合、二階十坪(以下本件建物という)

に対し、東京地方裁判所より仮差押決定を得て、

同日、東京法務局墨田出張所受付第八七八六号を以て、仮差押の登記をなした。

二、その後、被告は債務者山本平助に対し、前記被保全権利を含む約束手形金(額面合計金百七十三万一千二百二十七円)債権を請求する訴を提起し、東京地方裁判所において、昭和三五年二月六日勝訴の判決を得た。

ついで、被告は、右判決の執行力ある正本に基き、債務者山本平助所有の本件土地建物に対し、東京地方裁判所昭和三十五年(ヌ)第一六四号不動産強制競売手続を申請し、昭和三十五年三月八日強制競売開始決定を得、同年五月三十日の競売期日同月三十一日の競落期日において本件土地建物は一括競売により競落代金三百七十一万円で競売された。(但し配当期日における売却代金は別紙配当表通り)。

三、原告らはいずれも右強制競売手続に配当加入をした配当要求債権者である。(債権額は別紙配当表記載の債権額通り。)

本件土地建物については、訴外住宅金融公庫が東京法務局墨田出張所昭和二八年七月二日受付第一二三一五号を以て登記済の順位壱番、債権額金四九万円の抵当権を有し、

本件土地のみについては、訴外湯浅貿易株式会社が、同法務局同出張所昭和三三年四月二日受付第九〇八六号を以て登記済の順位二番、債権極度額金三〇〇万円の根抵当権を有する。

四、而して、右不動産強制競売事件において、東京地方裁判所は、昭和三五年十月二七日の配当期日において別紙のとおりの配当表を作成した。

即ち、右配当裁判所は、仮差押債権者である被告に対し仮差押登記が、二番根抵当権者湯浅貿易株式会社の根抵当権設定登記より前になされていることを理由として、仮差押の被保全債権額の限度で、右二番根抵当権者並びに原告等の配当要求債権者に優先する順位を認めている。しかし、右の解釈は仮差押の法律的性質及び効力並びに債権者平等主義の原則を無視するものである。

仮差押の登記後に登記をした抵当権者があり、更にその抵当権設定登記後に配当加入をした債権者がある場合、仮差押の効力には、優先弁済権が含まれない以上、仮差押債権者と配当要求債権者との間においては、債権者平等配当主義の原則によつて平等配当がなさるべきものである。両者の間に、抵当権者が介在したからといつて、突如として仮差押債権者が配当要求債権者に優先するというような債権者平等の原則の例外が生ずる理由は全く存しない。

原告らは、右配当表中、被告に対する後記優先配当部分について、異議を申立た。

五、即ち、右配当表中の、被告に対する優先配当分(仮差押被保全債権に対する金百三十一万七千六百八十七円の配当部分、以下別紙配当表AB部分という)は取消され右配当表中の残額金九十一万一千八十四円と共に、原告ら、と被告間に平等に按分配当さるべきものである。(尤も配当表中右残額金の配当部分は現在確定している。)

六、仮に、右の異議理由が認められないとすれば、次の通り主張する。

(1)  即ち、前記の通り訴外湯浅貿易株式会社は、本件土地についてのみ順位二番の根抵当権を有するものである。

そこで、仮差押債権者は、仮差押登記後に抵当権登記ある抵当債権者及び抵当権登記後の配当加入債権者に優先するとしても、独立の不動産である本件建物については、被告の仮差押登記後には何らの抵当権登記なく、配当加入債権者として、原告らが存するものであるから、本件建物の売却代金については、原告らと、被告間においては、平等に按分配当がなさるべきである。

しかるに、右配当表は、この点を看過している。

(2)  そこで、本件土地は一括して競売され、配当されるその売却代金三、七一五、五八八円は本件土地、と本件建物の各代金部分に可分されていないけれども、まずこれを本件土地の分と、建物の分とに区別し、おのおのに配当方法を考える必要がある。

本件土地、建物の本件競売手続における各評価額は、

本件土地 評価 金六九万八千円

本件建物 評価 金一九八万八千円

である。

前記売却代金を本件土地と建物に分けるとすれば、右評価金の比率によつて分けることになり、その結果は、

(一)  本件土地の売却代金分は、金九六万五千五百五十五円、

(二)  本件建物の売却代金分は、金二百七十五万三十三円

である。

(3)  よつて、右本件土地の売却代金分金九六万五千五百五十五円については仮差押債権者たる被告に全額優先配当し得るわけで且つこれ以上は優先配当し得ないはずである。

(尚訴外湯浅貿易株式会社は抵当権なき本件建物の売却代金分から原告らに優先して配当を受けた計算になるが、関係人が異議を述べなかつたので、配当表中湯浅貿易株式会社に対する部分は確定している。)

(4)  而して、本件建物の売却代金分のうちから、競売費用、第一順位の抵当権者住宅公庫に対する配当分を差引き(これらは本件土地の売却代金分を按分して計算することもできるが、被告にもつとも利益なように全て本件建物の分から、出捐したこととする)、更に訴外湯浅貿易株式会社に配当済となつている分を差引いた残金百二五万三千二百十六円を、原告らと、被告間において、平等の順位で按分配当さるべきものである。

七、以上の理由により第一次的に請求趣旨一の通りの判決を求め、予備的に前記配当表のうち、被告に対する優先配当を定めた部分金百十四万八千四百八十七円のうち、金七九万六千三百五十五円(右本件土地売却代金分から配当表A部分を差引いた残額)を越える部分を取消し、右取消された配当額金三五万二千百三十三円が、予備的請求趣旨の通り配当されることを求める。

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として次の通り述べた。

一、請求原因、一、二、三、の事実は認める。

請求原因四、の事実中、原告ら主張の配当期日に原告ら主張通りの配当表の作成されたこと、並びに被告の仮差押被保全債権額につき、原告らの配当要求債権に優先して配当をなしていること原告らが異議申立をしたことを認め、その余は否認する。

請求原因五、のうち、配当表中残額金の配当部分は、現に確定していることを認め、その余は争う。

請求原因六、の(1) のうち、訴外会社が、本件土地についてのみ原告ら主張の根抵当権を有すること、本件建物については、被告の仮差押登記後、抵当権登記なきこと配当加入債権者として原告らの存することは認め、その余は争う。

請求原因六、の(2) のうち、本件土地建物が一括競売され、配当される売却代金が原告ら主張の金額であつて、本件土地、建物部分に可分されていないこと本件土地、建物の各評価額が原告ら主張の通りであることは、認めその余は争う。

請求原因六、の(3) (4) は争う。(ただし訴外会社の配当部分が確定していることは認める)

二、被告は、二番抵当権者訴外会社と同等の順位で配当をうけたものである。

訴外会社の抵当権設定の登記があつたため、被告は仮差押の限度においては、抵当権者とは平等の関係に立つが、配当要求債権者たる原告らは、抵当権者に対しては、その抵当債権額の範囲内では平等を主張し得ない。

この法理は、相対効力主義と称すべく、この法理によれば、配当表記載の配当は正当というべきである。

理由

一、被告が、昭和三三年三月三十一日、原告主張の被保全債権につき、債務者山本平助所有の本件土地、建物につき原告主張の通りの仮差押決定を得て、原告主張の通り、同日仮差押の登記をなしたこと、被告が、右仮差押被保全債権を含む合計百七十三万一千二百二十七円の約束手形金債権につき、原告主張の通り、債務者山本平助に対し訴を提起して勝訴判決を得、その判決の執行力ある正本に基き、本件土地建物に対し強制競売申立をなし、原告主張の通り、東京地方裁判所の競売開始決定を得、本件土地建物は一括競売されて代金三百七十一万円で競落されたこと。

原告らは、右強制競売手続に、原告主張通りの債権額を以て配当加入をした配当要求債権者であり、本件土地、建物については、一番抵当権者として、訴外住宅金融公庫が原告主張通りの抵当権を有し、訴外湯浅貿易株式会社(以下訴外会社という)は、本件土地についてのみ、原告主張通りの右仮差押登記後に登記された根抵当権を有し、右強制競売事件について原告主張の配当期日に原告主張通りの別紙配当表が作成され、配当期日において、原告らは、右配当表中被告に対する優先配当部分(別紙配当表AB部分)につき異議を申立たこと、

本件土地建物の、右強制競売における各評価額は原告主張の通りであること、

は当事者間に争がない。

(仮差押債権者、仮差押登記後の抵当権者、配当要求債権者間の配当順位について)

二、右強制競売事件の配当に関して、一番抵当権者住宅金融公庫が、原告ら、被告、及び訴外湯浅貿易株式会社に優先することは明らかであつて、この点は、当事者も争なく、本件異議訴訟において、特に問題とする要を認めない。

仮差押債権者、仮差押登記後に登記した、配当要求をしない抵当権者、その抵当権登記後に、右仮差押債権者が、本執行のため申立た強制競売事件について配当要求をなした債権者ある場合、競売代金はいかに配当がなさるべきかについては種々の論が存するところ、

仮差押によつて、仮差押債権者に優先弁済権が生ずるものではないが、仮差押登記後に登記された抵当権は、右仮差押債権者に対し対抗することができず、而も右抵当権者が、配当要求をなさないときは(本件において訴外会社が配当要求をなした旨の主張乃至その証跡は存しない)、右抵当権者は、右仮差押債権者に対しては、配当要求なき一般債権者にほかならず、仮差押債権者としては、右抵当権者を無視して、その被保全債権につき配当要求債権者と共に配当を受け得る地位に立つに至るものと解すべきである。(なお抵当権者が配当要求をしたるときは、仮差押債権者と平等の地位に立つ)。そこでまず、競売代金(本件では手続費用一番抵当権者への配当分を差引いた残額について)は仮差押債権者と配当要求債権者(仮差押債権者の被保全権利外の債権を含む)の間で債権額に応じ比例按分することになる。仮差押債権者については比例按分額が、その配当額となる。

而も右抵当権者は、配当要求債権者に対しては、その抵当権を以て対抗し得るものであり、配当要求債権者は、仮差押債権者のなした仮差押の効力を援用できないものであるから、右抵当権者は抵当債権額(本件で訴外会社の債権額は、配当表記載の金百十五万七千二百十円である)にみつるまで、配当要求債権者の右比例按分額から、吸収して弁済を受け得るものである。右吸収を終つた残額が、配当要求債権者の配当額となる。右方法により、仮差押債権者、右抵当権者、右配当要求債権者間に配当額が定まるものと解するのが最も合理的であると認める。

本件配当表を検するに、異論の対象たる、被告に対する優先配当分(別紙配当表中ABの部分)が、右方法により算出されたものとは認めがたく、被告に対する右優先配当分は一律に、仮差押債権者たる被告が、抵当権者訴外会社原告ら配当要求債権に優先する配当方法を採つて定められたものであるとして為す原告らの異議は結局理由がある。

三、尚本件強制競売においては、一括競売の方法がとられ、一括した売却代金が出ているところ、訴外会社は本件土地、建物のうち、土地についてのみ抵当権を有するにすぎず、一括競売の方法がとられたからといつて、抵当権の効力が本件建物にまで及ぶものではない。配当要求をしない抵当権者訴外会社は土地売却代金に相当する部分からのみ抵当債権の弁済を受け得るにとどまる。

しからば、一括売却代金中から、いかにして、土地代金部分建物代金部分を可分するかについては、原告ら訴訟代理人主張の通り、強制競売手続における本件土地、建物の評価額に則り比例按分するのが、合理的であると解する。

本件配当表を検するに、訴外会社が、本件についてのみ抵当権者であることが看過されているけれども、訴外会社に対する配当部分は既に確定しているから、本件訴訟においてはこの点は最早問題にする要を認めない。

四、そこで本件配当表中被告に対する優先配当部分(別紙配当表ABの部分)を取消すこととする。而して仮差押債権者としての被告に対する配当分は、叙上二における方法により算出された額をもつてすべく、右取消部分の金額との差引残があれば原告ら配当要求債権者(被保全債権以外の被告の債権をふくむ)に配当されることになるわけであるが(本件では結局原被告間の比例按分に帰す)、その新なる具体的の支払の額を本件異議の訴の判決中で定めることは適当でなく、前記競売手続において、新たなる配当表の調整及び他の配当手続のなされることが相当であると認めるので、民事訴訟法第六百三十六条後段に則り、尚訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 後藤静思)

別紙

昭和三五年(ヌ)第一六四号

配当表

一、金三百七十一万五千五百八十八円也

但し売却代金内訳(競落代金三百七十一万円也・同右利息金五千五百八十八円也)

金四万六千七百二十一円也

但し、競売手続費用、申立債権者に交付

金二十九万二千八百八十六円也

内訳は別紙計算書のとおり

抵当権者住宅金融公庫に交付

(A) 金十六万九千二百円也

但し、後記約束手形金に対する昭和三三年五月一日より

昭和三五年十月二七日まで年六分の割合による損害金

申立債権者に交付

(B) 金百十四万八千四百八十七円也

但し、振出日昭和三三年二月三日の約束手形金

申立債権者に交付

金百十五万七千二百十円也

但し、昭和三三年十月一日より昭和三四年九月二四日までの木材売掛金残

根抵当権者湯浅貿易株式会社に交付

残額金九十万一千八十四円を左の通り配当する。

表〈省略〉

昭和三五年十月二十七日

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